片頭痛編(第二回) Dr.藤田の健康コラム

片頭痛の治療の変遷を今まで40数年見てきました。痛いときにどうするか、昔は一般的な鎮痛剤と、ライ麦などから生成されたエルゴタミンが片頭痛の急性期(前兆の際に投薬する)治療薬として使われていました。エルゴタミンは血管収縮や子宮収縮作用があり、妊娠時期や授乳時期には使うことができないことや、ほかの薬とは飲み合わせがむつかしいこと、吐き気が多いなどでとても使いにくい薬でした。でもそれしかなかったのです。そこに2000年にトリプタン製剤(セロトニン受容体作動薬)が発売され、それまでの常識を覆すほどとてもよく効きましたが、半数ちょっとの方の満足感が得られたというところでしょうか、使いやすいためあっという間に広がり、エルゴタミンは過去の薬になりました。トリプタンが世に出て20年がたって、2022年にカルシトニン遺伝子関連ペプチド(抗CGRP関連薬)の注射薬が出るまでのあいだ、予防薬の模索が続きました。

このあいだにおこった困ったことは、薬物乱用性頭痛の増加です。二日酔いが片頭痛もどきという意見もありますが、世の中の8割以上の方は一生片頭痛を経験しません。片頭痛の方は、頭痛が突然おこるために、具合が悪く仕事や学校に行けなくなることがあり、ドタキャン的な行動と受け止められることがあります。本人がつらいのに職場や学校が理解してくれない、そういうことが往々にして起こります。軽症の頭痛は鎮痛剤でやり過ごせることが多く、中等度の片頭痛はトリプタンで改善することがあるために、何とか仕事や学校へ行こうとして、症状が軽くても、発作がまだ起こっていなくてもフライング気味に薬を飲む方が激増しました。飲めば飲むほど効いている時間が短くなりついに効かなくなる、こうして薬物乱用性頭痛が出来上がるのです。薬物乱用性頭痛の治療法は、1乱用薬物の中止、2抗CGRP関連薬の注射、3片頭痛予防薬の投与です。乱用薬物の中止に合意いただけない患者さんは、市販薬の鎮痛剤を大量に所持していることがおおく、外来でいくら説明しても乱用のループから残念ながら抜け出せない方がおります。この二十年特にここ数年の頭痛治療の進歩には目を見張るものがあります。早く治療を開始することや、難治化させないために抗CGRP関連薬を適切に使うこと、片頭痛予防薬を適切に使うことが大事です。治療が遅れること、我慢しすぎること、市販薬に頼りすぎること、これらが特に女性でつらい人生にむすびつく可能性があります。適齢期に性成熟の時期に片頭痛の強さと頻度がピークを迎え、人生で一番華の開いてほしい時期に、頭痛のしんどいループにはまってしまいかねません。そこからぜひ脱出しましょう。そのために思春期からのとりくみがたいせつになります。女性の場合には妊活を見据えた治療が必要になります。次回から年代ごとにご説明します。