睡眠編(第三回) Dr.藤田の健康コラム

国民の5~6人に一人が睡眠時無呼吸症候群(SASと略)の状態にある現在、気が付いていない、ないし見逃がされている方がおおいはずです、順次述べてみます。

ディケンズの小説で有名になったピックウィック症候群があります。この小説の主人公は肥満児の「ジョ-」です、彼は高度の肥満で昼はウトウトして、夜は盛大ないびきと無呼吸を繰り返します。高度の肥満でかつ炭酸ガスがたまっていても呼吸神経の反応が悪く、肥満によって横隔膜が挙上し、肺が頑張れない(いわゆる低喚気)になっています。

ギルミノー博士の睡眠時無呼吸症候群の疾患概念の確立が1970年代です。気道の狭い閉塞型(いびきをかくOSAS)と心不全を中心とする呼吸中枢の炭酸ガス反応性が低下する中枢型(いびきをかかないCSAS)に分類され、1980年代になってOSASを治療するCPAPが開発されました。CPAPが一般に広まるのはさらに後です。CPAPは陽圧をかけますので、息苦しくなる患者さんがおられます。どうしてもCPAPを装着できない、ないし中等症のSASの患者さんにマウスピースを装着していただくことがあります。下顎を前に出すことによって舌の根っこを前に移動させ気道閉塞を防ぐという方法です。出来合いのマウスピースではフィットしませんので、医科でSASの診断と程度の確認をしてから、歯医者さんでオーダーメイドしていただくのが一般的です。

子供さんで、扁桃腺が肥大したり、アデノイド増殖症で気道が狭い方は耳鼻咽喉科で手術的に除去してもらうと劇的に呼吸が改善することがあります。軟口蓋を手術して顎の矯正術を追加して気道を確保するという根治術もあります。

自分の経験で言わせていただきますと、脳腫瘍が原因となったCSASの経験は1例のみです、中枢型の疑われる心不全や呼吸不全があるケースはすべて内科に紹介し、他はすべてOSASです。OSASを検査治療していますと1~2割の方に軽度の中枢性無呼吸を示唆する低換気を伴うチェーンストークス型呼吸(過呼吸と無呼吸を繰り返す)を伴う方がおられます。そのほとんどはBMI40以上の高度肥満の方です。例えば160センチで100kg・170センチで120kgを超えるような方はぜひ検査を受けてください。せめてBMIは30を切るように健康づくりをしましょう。

日本でSASが大問題になったきっかけは2003年に新幹線の運転手さんが居眠り運転をしたことです。彼の体重は100kgでした。その後もバス・トラックなどのドライバーさんの居眠り運転事故が相次ぎ、働き方改革以前の問題として、睡眠時無呼吸症候群への対策は、重大な問題と私はとらえています。今回の最後のメッセージとして、アルコールはSASを誘発かつ重症化する危険があります。