脳の神経にまつわるお話(状況失神について) Dr.藤田の健康コラム
前回は、俗に言う貧血や立ちくらみについて説明いたしました。それ以外の失神は大まかに三つほどあります。まず頚動脈洞症候群があります。柔道の締技であり、プロレスのフロントチョーク(頚動脈締め)はこれに相当します。次いで二つ目は状況失神で、トイレを我慢した後に多いです。最後は稀な、てんかん性失神です。

最初に頚動脈洞症候群について説明します。頸動脈は喉ぼとけの横に指を添えてもらうと拍動がわかります。この頚動脈は脳に行く血管(内頚動脈)と顔面に行く血管(外頚動脈)に分かれますが、この分岐点を頚動脈洞と呼び、ここに多くの圧受容体が存在します。この圧受容体が刺激を受けると血圧が急に上昇したと舌咽神経が認識し、その情報が迷走神経に伝わり過剰興奮してしまいます。その結果、副交感神経の反応で、脈拍が極端に遅くなり、血圧がスト-ンと下がってしまいます。その結果として失神が起こります。襟首を締めたときだけではなく、急激な頚部の動き(回旋や後屈)・頚部の腫瘍による圧迫でもこの反射が起こります。この場合には耳鼻科や食道疾患の専門医に相談してください。自分自身子供のころにプロレスごっこで失神遊びがはやりましたが、まかり間違うと危険です。襟首を締めるのは、本気でも遊びでもやめましょう。
さて次が大事な状況失神です。激しい嘔吐(胃の内圧の急激な変化)の後の失神は食道の病変で多いといわれています。排尿後失神は排尿を我慢して膀胱を限界まで膨らませやっと「間に合った」と、排尿した直後に膀胱内圧が急速に下がり、血圧が下がります。特筆すべきことは立って排尿する男性に排尿後失神が多いことです。自宅外でアルコールを飲んだ後にお店のトイレの待ち時間が長かった時には、座って排尿した方が安全です。排便を我慢した後も同様の作用で、失神が起こります。便秘の女性に多いという印象がありますので、常日頃水分を十分に摂取して食物繊維の多い食事を心がけてください。排尿困難や排便困難があれば、泌尿器科や外科、場合によっては婦人科の先生への相談が必要になります。人間だれしも膀胱の筋肉の伸びが悪くなり排尿感覚が短くなります。回数は増えても、夏の脱水を避けるためには水分を減らしすぎないようにしてください。
てんかん性失神は稀な疾患です。側頭葉てんかんともいわれますが、複雑部分発作の時に迷走神経の過緊張によって高度の徐脈がおこって失神する場合があります。薬のあまり効果のない難治性てんかんの治療方法として、迷走神経刺激療法があります。これはとても専門的な治療方法で、北海道でも行っている施設はわずかですので、専門医への相談が必要です。
このように失神は結構ありふれた症状です。水分は減らしすぎないように、便秘下痢しないように、お酒を飲みすぎないように、野菜などの食物繊維を多く摂取するように、トイレは早めになど、対策を忘れずに。お願いします。
